2010年12月31日金曜日

ビジネスマナー講座2 言葉編②


 
 ●「~させていただきます」はNGとさせていただきたく

「~させていただきます」も、たいへん気になる。

 『今月末をもって退職させていただきます』

なんかこう、尊大なカンジがしないか?
もうだれがなんと言おうと辞めてやる、みたいに聞こえる。
文法的には使役+謙譲なんだけど、この複合語の歴史は置いておいて、
意味としては「強い意志」を表すものとされている。
謙譲表現を抜いて「させてもらいます」というと、わかりやすい。
喧嘩売ってるようなもんだ。もともとの構造がこうなんだから、
そこに謙譲をとってつけても、かえって不遜で慇懃になるだけだ。

 『明日は定休日に付き、休業させていただきます』(デパート)
 『明日は休刊日に付き、朝刊を休ませていただきます』(新聞)

強い意志でもって断固休みたいと断っている。丁寧なようでちっとも丁寧じゃない。
その昔、小職は宝塚の女優たちと映画を作ったことがある。
初顔合わせのとき、ずらっと並んだ彼女たちは一様に、

 『光源氏ををやらせていただきます愛華みれです』
 『藤壺を演じさせていただきます大鳥れいです』

って言うんだよ。挨拶されているこっち側は監督や脚本家で、
小職も製作(※)側プロデューサーだから、そこではそうとう偉い。
 ※映画やコンテンツ業界では「制作」と「製作」を明確に分ける。
 衣がついている「製作」は金を出した会社や人、「制作」は請負の会社を指す。
ヅカは体育会系軍隊式だから、全員判で押したように同じしゃべり、
ヒエラルキーを守って謙譲しているつもりなんだろうけど、なんかこう、
絶対的なものを感じて違和感があった。

 『藤壺役の(を務めます)大鳥れいと申します』

このほうがたおやかでいいんじゃないかね。
「退職させていただきます」も、書いた本人は上品な表現を使ったつもりなんだろうけど、
退職というものは、雇用者が願い出て雇用主が許可するものだという基本的な考えがなく、
一方の宣言で雇用契約が終ると誤解している。

 『今月末をもって退職させていただきたく、お願い申し上げます』

これならば正しい。
基本的には、「~させていただきます」と使いたくなったら、「~いたします」で置き換える。
もっとへりくだりたければ「~申し上げます」という。
こちらから先方へ、という動きであれば「さしあげます」を使うのも素敵だ。

 ○明日は定休日に付き、休業いたします。
 ×来週ご連絡させていただきます。
 ○来週ご連絡いたします。
 ○来週ご連絡申し上げます。
 ○来週ご連絡をさし上げます。

「~させていただきます」は、目上から目下に使うのはいいが、目下から目上に使ってはいけない、
商売する側が客に向かって言ってはいけない、権力下にあるものが権力側に使ってはいけない、
と肝に銘じよう。

0 件のコメント:

コメントを投稿