2010年12月31日金曜日

ビジネスマナー講座4 目的編②


  ●詐欺師の作法

これは詐欺を生業にしていた元詐欺師に聞いた話。
人を効率よく騙すには、最初のうちに疑わせるのが肝要なのだそうだ。
たとえば最初に10万くらい借りる。期日どおりに返済しようと思えばできるのに、
わざと1日遅らせて返す。
すると貸したほうはどうなるか?その1日、おやどうしたのだろう?といぶかる気持ちになるだろう。
1日遅れてちゃんと返したら、頃合を見てまた借りる。金額はちょっと多めくらいでよいが、
じゃっかん約束の期日は延ばす。
そしてこれもまた、あれがうまくいかないとか明後日には必ずとかなんとか言い訳しつつ、
わざと遅らせる。
しまった、騙されたか?!やっぱりあいつは信用できないと思っていたんだ、
いや待てよ、ちゃんと連絡してきたじゃないか、ほんとにたいへんなんだ、きっとそうに違いない、
いやいやそれにしても、、、貸した側の逡巡は痛々しい。まるで「走れメロス」だ。

詐欺師はしかし、それをこそ冷静に見て取ったあと、平謝りに謝り、
さらに少しイロ(利息)を添えて返す。
貸した側はなんだ、やっぱり信用できるじゃないか、いい奴だと思い込むのだが、
いぶかり疑っているとき、良心の呵責にさいなまれていたことに気づいていない。
この呵責が、やはり彼は大丈夫だったじゃないかとなったとき、強烈なバネになり、
必要以上に信用してしまっていることに自覚がない。
詐欺師はそれを見切った瞬間、一気に300万借りて、どろん。
これが詐欺師の作法というわけだ(もちろん、詐欺師の言うことなんだから、
話半分以下でちょうどよいが)。

1印象も真面目、次の印象では輪をかけて大真面目、
なんてことでは案外深く信用されないもので、
そもそもそんなしっかりした人に金を借りに来られたらあまりにも意外で貸さないだろうね。
痛い目は見たくないが怖いものは見たい、いい加減な人が気になる、不運な人に注目する、
人の多くはそういうふうにできていて、かつ本当にそんな人だったのかと、
落胆したり失望しようとするとなぜか良心が傷む。
ほとんどの人は小さいころから徹底的に良心を植え込まれ、言ってみれば、

「騙されるように育てられている」

それが人間なのだ。
うがった言い方をすると、このことに気づいた人が逆に人を騙す側に回ってしまうのかもしれない。


少し話がそれたが、以上が本講座の第一回お言葉編①で触れた、印象の変化に関する解析で、
ふだんの仕事や人間関係でも大いに運用できる事柄だと思う。
つまり、わざと疑わせるような危険を冒す必要はないにしても、
往々にして今たいして信用も信頼もされていないのだし(笑)、そのうえ失敗などもするんだし、
そうなったらもうこれ以上はないくらいの、大チャンスが転がってきた、ということだととらえる。
そう、怒ったりがっかりしたとか言って嘆いているクライアントは、
(ふつうに育った人なら)良心の呵責にさいなまれている真っ最中。
今こそ汚名返上、名誉挽回(汚名挽回は間違い)、それどころか、
今後いかようにでも騙せるくらいの絶対信頼を得る、またとない機会が到来したととらえるのだ。

人間の心の構造は複雑怪奇でとらえがたいところもあるが、
それを洞察しようとする努力さえ怠らなければ、マナーなんてものはやがて、
いともカンタンに身につくものと考えていてよいと思う。

ビジネスマナー講座3 目的編①


  ●仲良しになるための武器

そもそもビジネスマナーは何のために必要なのか。その目的について触れておきたい。
ふつうマナーというのは、人の領域にずけずけ入り込まない、
距離を一定に保つためにあるものだが、
ビジネスマナーは必ずしもそうではない。
ひたすら品行方正でお行儀よく、四角四面ならいいわけではない。
距離を縮めて仲良くなり、初(う)い奴とかわいがられたり、
あるいは同格のパートナーとしてリスペクトされ認められること、
これらをビジネスのひとつの目標ととらえ、ビジネスマナーはそれに貢献する武器と心得たい。

第一回で「了解」は好ましくないと書いたが、仕事を何度かしてきて、飲んだり食ったりもし、
じゅうぶんに仲良しであれば、「了解しました」でもいいのだ。
「了解しました!」と!をつけたっていいし、「りょーかい!」だっていい、
それこそ「ラジャ」だっていいし、
「合点承知」「合点承知の助」など、その仕事が請け負えてうれしくてしょうがないみたいな、
弾んだカンジがあってスコブルよい。
こんな言葉を使えるなら、たいがいの失敗も許される間柄のはずで、
クライアントとそういう間柄であることは、ビジネスとして非常に価値が高い。
しかし、そうカンタンにそんな関係が築けるはずもない。どれだけの年月やプロセスが必要か、
気が遠くなるが、このプロセスをどう踏むかが問題なのだ。
冒頭に言った、距離を一定に保つことばかりに腐心していては、
何年経っても自然に縮まった範囲にとどまる。これではもったいない。
スキあらば、と言っては変な表現だが、ふだんびしっとしたマナーを守り礼節を持ちつつ、
近づけるチャンスが来たらがんがん行く。
時に不用意にやりすぎて、やっべ、フレンドリーに過ぎたかと感じたら、退く。その繰り返し。
異性を口説くときと一緒だな(どうもたとえが下世話だ)。

ビジネスマナーを解説するホームページはあまたあるが、目的を説くサイトはない。
初歩的で最低限のことととらえているからだろうが、小学校の道徳じゃないんだし、
そのとらえ方では物事を見間違うと小職は思う。
なぜならば、ビジネスと言ってる以上、お金に向かっていないといけないからで、
あの人は礼儀正しいねえ、紳士だねえという評を集めても、でもおかしくもなんともないねえ、
ものを頼むときは違う人にしようねえ、ではビジネスマナーにおける失敗ととらえるべきだからだ。
礼儀正しく、マナーの心得が十分なことでかえって、
印象に残らない無個性で地味な人になってはいけないのだ。

ビジネスマナー講座2 言葉編②


 
 ●「~させていただきます」はNGとさせていただきたく

「~させていただきます」も、たいへん気になる。

 『今月末をもって退職させていただきます』

なんかこう、尊大なカンジがしないか?
もうだれがなんと言おうと辞めてやる、みたいに聞こえる。
文法的には使役+謙譲なんだけど、この複合語の歴史は置いておいて、
意味としては「強い意志」を表すものとされている。
謙譲表現を抜いて「させてもらいます」というと、わかりやすい。
喧嘩売ってるようなもんだ。もともとの構造がこうなんだから、
そこに謙譲をとってつけても、かえって不遜で慇懃になるだけだ。

 『明日は定休日に付き、休業させていただきます』(デパート)
 『明日は休刊日に付き、朝刊を休ませていただきます』(新聞)

強い意志でもって断固休みたいと断っている。丁寧なようでちっとも丁寧じゃない。
その昔、小職は宝塚の女優たちと映画を作ったことがある。
初顔合わせのとき、ずらっと並んだ彼女たちは一様に、

 『光源氏ををやらせていただきます愛華みれです』
 『藤壺を演じさせていただきます大鳥れいです』

って言うんだよ。挨拶されているこっち側は監督や脚本家で、
小職も製作(※)側プロデューサーだから、そこではそうとう偉い。
 ※映画やコンテンツ業界では「制作」と「製作」を明確に分ける。
 衣がついている「製作」は金を出した会社や人、「制作」は請負の会社を指す。
ヅカは体育会系軍隊式だから、全員判で押したように同じしゃべり、
ヒエラルキーを守って謙譲しているつもりなんだろうけど、なんかこう、
絶対的なものを感じて違和感があった。

 『藤壺役の(を務めます)大鳥れいと申します』

このほうがたおやかでいいんじゃないかね。
「退職させていただきます」も、書いた本人は上品な表現を使ったつもりなんだろうけど、
退職というものは、雇用者が願い出て雇用主が許可するものだという基本的な考えがなく、
一方の宣言で雇用契約が終ると誤解している。

 『今月末をもって退職させていただきたく、お願い申し上げます』

これならば正しい。
基本的には、「~させていただきます」と使いたくなったら、「~いたします」で置き換える。
もっとへりくだりたければ「~申し上げます」という。
こちらから先方へ、という動きであれば「さしあげます」を使うのも素敵だ。

 ○明日は定休日に付き、休業いたします。
 ×来週ご連絡させていただきます。
 ○来週ご連絡いたします。
 ○来週ご連絡申し上げます。
 ○来週ご連絡をさし上げます。

「~させていただきます」は、目上から目下に使うのはいいが、目下から目上に使ってはいけない、
商売する側が客に向かって言ってはいけない、権力下にあるものが権力側に使ってはいけない、
と肝に銘じよう。

ビジネスマナー講座1 言葉編①

「了解」はNG

イの一番に言っておきたい。
メールの応答、会話でも「了解」を無闇にみんな使うけど、本来NGだ。
クライアントや目上に対して「了解」と応えるのは、
そのあとが「しました」であろうと、「致しました」であろうと好ましくない。

 『承知しました』
 『承知いたしました』

が正しい。自分で書いたり、声に出して言ってみればわかる。
断然引き締まった感じがするだろう?ほかに応えるとすれば、

 『かしこまりました』
 『承りました』

がいいね。かっこいい。

そもそも「了解」は対等な物言いであり、たとえば戦場で、
「右だ!右へ回れ!」「了解!」「ラジャ!」という風に使われる、
いわば記号のようなものだ。そこにはまったく敬意も尊敬も謙譲もない。
I rogered her.などというスラングが派生することから考えても、わかるでしょ)

クライアント担当者がちょっと昔の人だったり、心得があったりすると先に、

 『承知いたしました。
 では○月○日、○時にお待ちしております。
 当日は当社受付にてお問い合わせいただければ、
 係りの者がご案内申しあげます』

みたいなことをメールで書かれてしまい、それに対し、

 『了解しました』

は、アリエナイ。社会人1年生みたいだ。
ここで、すぱっと『かしこまりました』を使えたら、お?やるなコイツ、になる。
下請け会社にこういう言葉遣いをしてくるクライアントは、
あきらかに値踏みもしていると考えていいから、それを跳ね返したら点は高い。
ちょっとなめた風貌で、これをやってのけたりすると、
最初マイナスだったぶんがバネになって(笑)、えらく点数が上がること請け合いだ。
(印象が変わるとき、人の心に何が起こるかの化学的な解析はあとで詳しく触れる)

 『承知(いた)しました』
 『かしこまりました』
 『承りました』

まずはこれを胸に刻み、今日から使いまくる。
大げさかもしれないが昨日までの、「了解」と言っていた、
お子ちゃまな自分とはもうぜんぜん違うってことを自分で感じると思う。





能書き1

友がひとり逝った。

人は2度死ぬ。インディアンの考え方だったと思う。
1度目は肉体の死、2度目はその人を直接覚えている人が全員死に絶えたとき。
そう考えると人の一生はけっこう長い。夭逝したら数倍、長生きしたら2倍弱くらい。

この教えは残されたものがなにをしたらいいかも教えてくれる。
先に逝った人をうんと思い出し、彼について語ること。
そして、もうひとつ。長く生きること。

俳句4

行き方があって行き先がない炎天

短歌1

離さない吾も離すな熱帯夜骨盤を抱き君を知るかな

永遠はすッごいことよと君が言う土産物屋に雨宿りして

「探してたよ」「探されるのを待ってたよ」透明になるような秋晴れ

星月夜ベッドのことをベットというお前が好きで好きで

打ち明けても黙っていても離れゆく肩甲骨の形覚える

雨だねといえばそうねと返ってくるブランチらしきテーブル挟んで

昨日より一昨日よりも愛してるいつもと同ンなじあなたが憎い

実はおれ惚れっぽいんだと申告するあなたにサフラン抜きのライス

 寸分の狂いなきまま重なって脇のあいだに私の両肩

吾のごとく解けて凍りて尖(とんが)りて軒の氷柱を忍んで折りき

俳句3

満月の明くる日父を納骨す

柘榴割れ墓前に並ぶ黒い脚

冥福は祈るものなりとろろ汁

鳥渡る四十九日を境にし

濃密なふたりが燻す金木犀

木犀と血縁まるごと相続す

金木犀に免じ過ち赦しあう

金銀も木犀ひとつくれてやれ

タクシーの紅葉も恋も簡易版

タクシーのふと減速す秋祭

タクシー野分ものともせず突っ切る

南天の下にタクシー佇めり

未来こそ存在なのだ吾亦紅

新生姜やはり未来はなくはない

村芝居未来の子たち立ち止まり

初七日初めて話すのに諍い

話したことなき親族が睨んでいる

死はいつも唐突であり生ビール

秋冷や肌身はなさず携帯電話

俳句2

左手で熱燗酌みて恋の果て

マフラーの君に習いし結びかな

逆光の山茶花の下むせび泣く

真冬日やむしろ艶やかになる私

君想うほかにすることなく冬至

ゆく年を拍手で送ってみたくなり

虎落笛四の五の言わずただ歩く

狐火を纏いしおんな傾斜して

煤もまた存在であり煤払

注連張って娘十四の反抗期

現実をぽっとり包む葛湯かな

不倫も熟せば葱汁

薪ストーブ話ほどよく中断す

四十年ぶりに日記を買っちゃった

挨拶も賀状も要らぬ友逝けり

懐手して口許を見物す

終戦日より
開戦日
大人なんだし

無造作に蜜柑むぎゅむぎゅするものなり

ショール巻き我の形を確かめり

俳句1

輪廻かな椿の落ちる音に覚め

死ねるのに生きられないの薄紅葉

昨日は一文字せせり見たし

酒だけはやめられません七回忌

秋雷誰かを置いてきてしまい

君を吸う蚊にもなりたき夕べかな

熱帯夜君を溶接し溶接し

平日限定の男を蹴ってみた

大向日葵元気ないねと目を合わせ

抱擁のふたり黄色い残暑かな

向き合わぬふたり雷雨の駅舎にて

剥細く駆け出ひとよ鎌倉の雨

自慰の床台風なかなかやって来ず

母と子の紡がれていてライラック

リラ薫る母なるものの誕生す

爽秋の満員電車乗り慣れず

そぞろ寒メールメール電話メール

つがいの蜻蛉の空中停止

君の文を添削したき秋の宵

障子張る愛の内訳問われつつ

野分立つ消えてしまうにはでかすぎ

十六夜のみち一方通行(いっつう)ですよここ

コスモスを踏み分け星と僕の陣

休日の南瓜切るときいつも怖い

ほらここにほらここにいるよちゃんと見て

秋雨や子供みたいになきむせぶ

目の前はあなたの鼻ねハイヒール

ハイヒールkissの高さに富士額

ハイヒール道に落ちてる愛を刺し

サフランのあたたかくただあたたかく

独白や味も香りもサフランの

恋人のサフラン山分けす

サフランになろうねというプロポーズ

秋雷や肌を鉤裂く君の棘