2011年12月21日水曜日

ある中学生の自由研究『国民投票~もっとも正しい投票の方法を考える』

-1
題材を選んだ理由(1)

    平塚市長選の得票結果に関する疑問

得票順        得票数   得票率
 1  落合かつひろ 46,127票  45.86% 
 2  柏木とおる    34,480票  34.28
 3  水嶋かずあき   19,980票  19.86

1: 当選した落合さんは過半数を獲得していません。
2: 2位と3位の票を足すと1位の票を上回り過半数になります。
3: 平塚市の政治に対する落合さんの主張は、現状維持的なもの(保守)。
4: それに対し柏木さんと水嶋さんは改革を叫んでいました(革新)。
   柏木さん⇒市役所の民営化等
   水嶋さん⇒新庁舎建設中止等
5: 14より、保守賛成票より革新賛成票が上回っていることがわかります。
6: それなのに選挙が個人戦であることから落合さんが勝ち市長になりました。

私はおかしいと思います。平塚市のこれまでのあり方を変えたほうがいいと過半数の市民は考えています。改革派からたまたまやり方のちがう2人が立候補し、現状維持派がたまたま1人だった偶然による勝利に見えます。
1位の人が過半数に達していない場合、上位2者による決選投票を行うべきではないでしょうか?

1984年冬季オリンピック開催地をめぐる投票(全75票)

1次投票結果:1位札幌33票、2位サラエボ31票、3位イエテボリ10
⇒過半数を満たさない場合は上位2地域による決戦投票がルール。
決戦投票結果:1位サラエボ39票、2位札幌36

イエテボリ10票と無効1票のうち8票がサラエボに流れ、最初に1位だった札幌は負けたのです。


-2
題材を選んだ理由(2)

    東日本震災における首相や政治家のていたらく
東日本大震災や福島原発事故に対して、政治家、首相の判断が遅かったり悪かったりして、国民は大混乱しました。
大事なことを隠したり、だれかをかばったり、ちゃんとした説明が不足しているのは、震災から5ヶ月経った今でも変わっていません。
間接民主制の選挙で選ばれる議員は、国民の何を代表しているのでしょうか?
彼らのような人がどうして選ばれたのか、選ばれてしまうのか、私は疑問に思いました。
もっとすぐれた人はいないのか、そういう人を私たちの代表にする方法はないのかと考えたのです。

    原発は推進すべきか廃止すべきかを国民投票する時代
国会議員の国会での決議によって決める間接民主制ではなく、国民が直接投票していいか悪いかを決めるやり方があり、原発についてこのまま推進すべきなのか、廃止すべきなのかをこの方法で決めるほうがいいという意見があることを知りました。
日本の場合では、原子力発電所建設問題、米軍基地問題、最近では市町村合併をめぐり各地で住民投票が行われています。世界的に見ても国民投票の実施回数は増加傾向にあるといいます。
そこで、今の投票制度の問題点を考えながら、もっとも正しい投票のやり方はどういうものだろうと考えたのです。


2-1-1
民主主義の方法

    民主主義と間接民主制
日本国憲法は、前文で「主権が国民に存することを宣言し」ています。
そして、「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」と述べています。
更に41 条で国会を「国の唯一の立法機関」とし、
43 条では「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」
と規定していることから、「間接民主制」を採用しているものと理解できます。

    間接民主制(議院内閣制)
選挙などのある一定の方法によって民意代表者を選出し、自らの権力の行使をその代表者に信託することで、間接的に政治に参加しその意思を反映させる政治制度をさします。民主主義では、とある事案に関して十分な審議・討論を尽くすことが非常に大事なので、少数の代表者による間接民主制は議論を尽くすことには有効です。

    直接民主制(国民投票)
代表者などを介さずに、住民が直接所属する共同体の意思決定に参加し、その意思を反映させる政治制度です。
国家レベルでこうした制度を採用している国は現存しない。その理由としては、国民が一堂に会して討論・採決することが技術的・物理的に不可能であること、また、多くの国民には政策決定を行うための素養や時間的余裕がないといった点が指摘されてきました。
現代においては情報通信技術の発展(インターネット)によって、技術的な困難は取り除かれる可能性があり、短時間に提供できる情報の量も飛躍的に高まっているため、純粋な意味での直接民主制が今後とも実現不可能であると一概には言い得ない状況になっていると思います。


2-1-2
実際

○「直接民主制」というのは、国民全員が一カ所に集まって議論し合って、政治のありかたを決める方法です。しかし、実際には全国民が集まるなんていうことはできっこありません。そこで、ほとんどの国では、選挙で代表者を選んで、その代表者に政治を任せています。これを「間接民主制(代議制)」といいます。
 日本でも、国民の代表(国会議員)や地域住民の代表(都道府県議会議員、市町村議会議員、都道府県知事、市町村長)を選んで「間接民主制」で政治が行われています。
 
○中学校の生徒会には、「全校総会」と「代表者会議」(学校によって呼び方は違うと思いますが)があったと思います。年に1度や2度ほど開催される全校総会には全校生徒が参加して、生徒会の執行部に対してそれぞれの生徒が意見や質問をすることができます。一方、月に1回程度開催される代表者会議には、クラス委員が代表して出席し、クラスの声を生徒会に反映させます。
 つまり、この全校生徒全員が出席して行われる「全校総会」は、直接民主制によるもので、クラスの代表が出席して行われる「代表者会議」は間接民主制によるものだといえます。


2-1-3
直接民主制の研究

      直接民主制の短所
人間の情報処理能力の限界から、すべての国民が納得するまで議論を練り上げることは不可能。
国民投票の回数が多くなるほど参加が低下する。
国民の能力不足。
現状維持を選択する傾向にある。
問題を単純化して対立を深化させる。
少数派の権利を侵害する。
マニフェストや選挙公約との整合性を失わせる。
為政者の権威付けに利用されるおそれがある。

    直接民主制の長所
国民が国家の意思決定に直接かかわることができる。
常に最新の民意を反映できる。
制度の構造が単純。制度が歪められる余地が少なく、正当性を保ちやすい。
民主主義原理の貫徹、国民の意思を歪める間接民主制の弊害除去、
国民の政治意識の向上。

    直接民主制の短所に対する反論
国民の能力不足を指摘する意見があるが、実証研究によれば、国民投票のもたらす結果については概ね信頼できるとの評価が多い。
現状維持を選択する傾向にある、問題を単純化して対立を深化させる、という批判があるが、これらの批判はすべてのケースに該当するわけではないという反論がある。
少数派の権利を侵害する、マニフェストや選挙公約との整合性を失わせる、といった批判があるが、こうした弊害を是正する手段を保障することは可能であるという反論がある。
為政者の権威付けに利用されるおそれがあるという批判があるが、民主主義の成熟した国家では独裁につながる危険性は小さいという反論がある。



現状の諸問題

    1票格差
民主主義の原則は11票で、1票の重さは同等であるべきであるが、1票の格差が生じてくることがある。例えば、2004年最も人口が少ない選挙区が徳島1区の265144人、最も人口が多いのは兵庫6区の569911人となり、衆院300小選挙区の1票の格差は2.15倍となりました。

    死票
死票とは落選した人に投じられた票のことです。小選挙区制は政局を安定させ、選挙資金が少なくてすみますが、死票が多くなるのが欠点です。平塚市長選における55000票も死票であり、当選者の票数よりも多いのは問題です。
  
    低投票率
投票率はその地域における投票参加の意識の度合いを表すものとして使用さている。投票率が低いほど、組織票の割合が大きくなり、浮動票の割合が少なくなる。

平塚市長選を学校のクラスにたとえると、クラス全員40人のうち半分の20人が棄権し、投票総数の20票のうち9票を獲得したものが勝ったということと同じである。これで代表といえるだろうか?




2-2-1
投票方法の分析(1)

◆「単記投票方式」

A 沖縄>京都>北海道
B 沖縄>京都>北海道
C 沖縄>京都>北海道
D 京都>北海道>沖縄
E 京都>北海道>沖縄
F 北海道>京都>沖縄
G 北海道>京都>沖縄

この6人が「もっとも行きたい目的地」を単記投票すると、沖縄(3票)になります。
ところが、「もっとも行きたくない目的地」を単記投票しても、これも沖縄(4票)になってしまいます。
「もっとも行きたい目的地」が「もっとも行きたくない目的地」では矛盾しています。
世界中でもっとも一般的に行われている単記投票方式に大きな矛盾が生じるケースがあるのです。


2-2-2
投票方法の分析(2

◆「上位2者決戦投票方式」

A 沖縄>北海道>京都
B 沖縄>北海道>京都
C 沖縄>北海道>京都
D 京都>沖縄>北海道
E 北海道>京都>沖縄
F 北海道>京都>沖縄
G 北海道>京都>沖縄

上位2者は3票ずつで沖縄と北海道です。
この7人が「もっとも行きたい目的地」を沖縄と北海道の一騎打ちで決選投票するとABC3人プラスDの意向によって沖縄が1位になります(4票)。
ところが、「もっとも行きたくない目的地」を決戦投票しても、沖縄になります(4票)。
1位が過半数を得ていても、「もっとも行きたい目的地」=「もっとも行きたくない目的地」という矛盾を生じます。


2-2-3
投票方法の分析(3

◆「勝ち抜き決選投票方式」

A 沖縄>京都>北海道
B 京都>北海道>沖縄
C 北海道>沖縄>京都

この3人で単記投票をしてもそれぞれ1票ずつで結論が出ません。
なので、最初に沖縄vs.京都で投票し、その勝者と北海道のどちらがいいかという順で投票することにします。
沖縄vs.京都はACから2票入る沖縄の勝ちです。
沖縄vs.北海道だと、BCから2票入る北海道の勝ちです。
だから北海道に決定するというのは正しいのでしょうか?
1回戦を沖縄vs.北海道で行うとどうなるでしょうか?
BCから2票入る北海道の勝ちですが、2回戦北海道vs.京都をやると、
ABから2票入る京都の勝ちとなります。
つまり、勝ち抜き戦をやる順序に左右され、
最初にシードになったものが必ず勝つということになるのです。
これは矛盾です。



2-2-4
投票方法の分析(4

◆「順位評点方式」

① ABCD
② ABCD
③ BACD


① ABCD
② ABCD
③ BCDA

1位に4点、2位に3点、3位に2点、4位に1点というふうに、
評点を入れてそれらを計算するやり方を考えます。
上の順位では、

① A4)>B3)>C2)>D1
② A4)>B3)>C2)>D1
③ B4)>A3)>C2)>D1

A11点、B10点、C6点、D3点となり、Aが勝ちます。
しかし、下の順位のように③の人が偽った投票をすると、

① A4)>B3)>C2)>D1
② A4)>B3)>C2)>D1
③ B4)>C3)>D2)>A1

B10点、A9点、C7点、D4点となり、Bが逆転します。
これは矛盾ではありませんが、偽りの投票によって左右されることになり、
公正とはいえません。


2-2-5
投票方法の分析(5

◆「総当り決選方式」

選挙結果
A 39万票
B
 35万票
C
 31万票

選好順序
① ABC 10万人
② ACB 29万人
③ BAC 11万人
④ BCA 24万人
⑤ CAB 11万人
⑥ CBA 20万人

単記投票ではAの勝ちです。
しかし、ABCを総当り式で得票数を計算すると、A vs.Bは、
ABとなっている①②⑤の総数50万人と、
BAとなっている③④⑥の総数55万人を比較してBの勝ち。
同様に、A vs.Cは、
ACとなっている①②③の総数50万人と、
CAとなっている④⑤⑥の総数55万人を比較してCの勝ち。
同様に、B vs.Cは、
BCとなっている①③④の総数45万人と、
CBとなっている②⑤⑥の総数60万人を比較してCの勝ち。
総当たり戦ではCBAの順になり、単記投票のまったく反対となります。
これは矛盾です。



2-2-6
投票方法の分析(6

◆「全員当選?」

   ADECB 18
② BEDCA 12
③ CBEDA 10
④ DCEBA 9
⑤ EBDCA 4
⑥ ECDBA 2

○「単記投票方式」では、Aの勝ちです。
 (55票のうち37票が死票です)

○「上位2者決選投票方式」では、Aに投票する人数は①のみで18票、
Bに投票する人数は②~⑥の37票で、Bの圧勝です。

○「勝ち抜き決選投票方式」では、まずEを除外するので⑤⑥の票がそれぞれBCに流れ、A18票、B16票、C12票、D9票となります。
次にDを除外し、  ④の票がCに流れるのでA18票、B16票、C21票となります。
最後にBを除外し、②+⑤の票がCに流れるのでA18票、C37票となり、
Cが勝ちます。

○「順位評点方式」では、

   (A5D4E3C2B1)×18 ⇒ A90D72E54C36B18
  (B5E4D3C2A1)×12 ⇒ B60E48D36C24A12
  (C5B4E3D2A1)×10 ⇒ C50B40E30D20A10
  (D5C4E3B2A1)×9  ⇒ D45C36E27B18A9 
  (E5B4D3C2A1)×4  ⇒ E20B16D12C8A4
  (E5C4D3B2A1)×2  ⇒ E10C8D6B4A2

となり、評点を全部足していくと、
A127点、B156点、C162点、D191点、E189点となり、Dの勝利です。


○「総当り決選方式」では、
ABではBの勝ち、 ACではCの勝ち、 ADではDの勝ち、 AEではEの勝ちとなり、Aは脱落します。
BCではCの勝ち、BDではDの勝ち、 BEではEの勝ちとなり、Bは脱落します。
CD
ではDの勝ち、 CEではEの勝ちとなり、Cは脱落します。
DEではEの勝ちとなり、Dが当選します。


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○「単記投票方式」⇒Aの勝ち。
○「上位2者決選投票方式」⇒Bの勝ち。
○「勝ち抜き決選投票方式」⇒Cの勝ち。
○「順位評点方式」⇒Dの勝ち。
○「総当り決選方式」⇒Eの勝ち。

方式によって全員に当選の可能性があるという結論です。


2-2-7
投票方法の分析(7

◆「絶対に正しい投票方式はない」

投票の方法に絶対に正しい方式はなく、1票格差、死票の問題、低投票率などの問題を一気に解決できる方法も存在していません。これが現状です。

正しいやり方はないけれど、民主主義という大きな考え方は正しいのだということはいえるのでしょうか。
王政や貴族政治や専制政治がいいとは思えません。しかし、正しいやり方のないところに正義は証明できないのではないでしょうか。

ひとつだけいえるとすれば、正しいやり方を模索し続けること、それだけが正しいのかもしれません。

私なりにこういうやり方はどうだろうと考えてみました。



3-1
私の意見

●議員は必要(間接民主制)。
●選挙前と選挙後で人が変わったり言うことが変わることを防ぐ方法が必要。
●インターネットを活用すれば、いまの選挙方法よりもっと複雑でもっと多くのことを投票できるようになるのでは?と予想します(直接民主制)。
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政治の内容については住民投票によって決定し(直接民主制)、議員については、その選ばれた政策内容にもっとも近い考え方の人が選ばれるという方法を考えました。

以下がその具体的なやり方です。

    まず10個程度の議案を作成し、Yes-Noや重要度などを市民に投票してもらいます。議案の内容によって誰かが有利にならないよう立候補者全員が作成に携わる必要があります。
    立候補者は110の議案について自分の回答を選挙日より前に提出します。
    政策に関する市民による直接投票結果と同じ回答がもっとも多い人が当選するという制度です。



3-2
方法(例)

[1]議案作成

1)新庁舎建設。 YesNo
2)ゴミ収集を企業に任せる。YesNo
3)中学校を給食にする。YesNo
4)給食センターを企業に任せる。YesNo
5)保育園を企業に任せる。YesNo
6)市役所職員を削減する。YesNo
7)競輪事業を継続する。YesNo
8)今後、強化すべきこと(2つ選択)
 ① 学校教育の充実、学力向上
 ② 医療費無料(中学生まで)
 ③ 高齢者介護
 ④ 地域産業の活性化

[2]議案の直接投票結果

1)新庁舎建設。 Yes45,000票/No55,000票 ⇒ No
2)ゴミ収集を企業に任せる。Yes70,000票/No30,000票 ⇒ Yes
3)中学校を給食にする。Yes49,000票/No51,000秒 ⇒ No
4)給食センターを企業に任せる。Yes69,000票/No31,000票 ⇒Yes
5)保育園を企業に任せる。Yes58,000票/No42,000票 ⇒ Yes
6)市役所職員を削減する。Yes73,000票/No27,000票 ⇒ Yes
7)競輪事業を継続する。Yes10,000票/No90,000票 ⇒ No
8)今後、強化すべきこと(2つ選択)
 ① 学校教育の充実、学力向上……55,000
 ② 医療費無料(中学生まで)……81,000
 ③ 高齢者のケア、介護……49,000
 ④ 地域産業の活性化……42,000
 ⇒ ②、①を強化する。

[3][2]の結果で立候補者の考え方を採点(囲んだものが合致してるもの)

1)立候補者Aの回答Yes/立候補者Bの回答No/立候補者Cの回答No 

2)立候補者Aの回答No/立候補者Bの回答Yes/立候補者Cの回答Yes

3)立候補者Aの回答No/立候補者Bの回答Yes/立候補者Cの回答Yes

4)立候補者Aの回答No/立候補者Bの回答Yes/立候補者Cの回答Yes

5)立候補者Aの回答Yes/立候補者Bの回答Yes/立候補者Cの回答Yes

6)立候補者Aの回答No/立候補者Bの回答Yes/立候補者Cの回答Yes

7)立候補者Aの回答Yes/立候補者Bの回答No/立候補者Cの回答Yes

8)立候補者Aの回答③/立候補者Bの回答①②/立候補者Cの回答③

合計点 立候補者A3点/立候補者B8点/立候補者C6
    B候補者を当選とする。





4-1
≪参考資料≫

『理性の限界』高橋昌一郎(講談社現代新書)
21世紀型“直接民主主義”は本当に実現するのか?』(ダイヤモンド・オンライン)
『「直接民主制の諸制度」に関する基礎資料』(衆議院憲法調査会事務局)
『直接民主制の論点』(国立国会図書館)
『直接民主制の長所と短所』(千日ブログ)
柏木とおるホームページ
水嶋かずあきホームページ
落合かつひろホームページ
平塚市役所ホームページ


2010年12月31日金曜日

ビジネスマナー講座4 目的編②


  ●詐欺師の作法

これは詐欺を生業にしていた元詐欺師に聞いた話。
人を効率よく騙すには、最初のうちに疑わせるのが肝要なのだそうだ。
たとえば最初に10万くらい借りる。期日どおりに返済しようと思えばできるのに、
わざと1日遅らせて返す。
すると貸したほうはどうなるか?その1日、おやどうしたのだろう?といぶかる気持ちになるだろう。
1日遅れてちゃんと返したら、頃合を見てまた借りる。金額はちょっと多めくらいでよいが、
じゃっかん約束の期日は延ばす。
そしてこれもまた、あれがうまくいかないとか明後日には必ずとかなんとか言い訳しつつ、
わざと遅らせる。
しまった、騙されたか?!やっぱりあいつは信用できないと思っていたんだ、
いや待てよ、ちゃんと連絡してきたじゃないか、ほんとにたいへんなんだ、きっとそうに違いない、
いやいやそれにしても、、、貸した側の逡巡は痛々しい。まるで「走れメロス」だ。

詐欺師はしかし、それをこそ冷静に見て取ったあと、平謝りに謝り、
さらに少しイロ(利息)を添えて返す。
貸した側はなんだ、やっぱり信用できるじゃないか、いい奴だと思い込むのだが、
いぶかり疑っているとき、良心の呵責にさいなまれていたことに気づいていない。
この呵責が、やはり彼は大丈夫だったじゃないかとなったとき、強烈なバネになり、
必要以上に信用してしまっていることに自覚がない。
詐欺師はそれを見切った瞬間、一気に300万借りて、どろん。
これが詐欺師の作法というわけだ(もちろん、詐欺師の言うことなんだから、
話半分以下でちょうどよいが)。

1印象も真面目、次の印象では輪をかけて大真面目、
なんてことでは案外深く信用されないもので、
そもそもそんなしっかりした人に金を借りに来られたらあまりにも意外で貸さないだろうね。
痛い目は見たくないが怖いものは見たい、いい加減な人が気になる、不運な人に注目する、
人の多くはそういうふうにできていて、かつ本当にそんな人だったのかと、
落胆したり失望しようとするとなぜか良心が傷む。
ほとんどの人は小さいころから徹底的に良心を植え込まれ、言ってみれば、

「騙されるように育てられている」

それが人間なのだ。
うがった言い方をすると、このことに気づいた人が逆に人を騙す側に回ってしまうのかもしれない。


少し話がそれたが、以上が本講座の第一回お言葉編①で触れた、印象の変化に関する解析で、
ふだんの仕事や人間関係でも大いに運用できる事柄だと思う。
つまり、わざと疑わせるような危険を冒す必要はないにしても、
往々にして今たいして信用も信頼もされていないのだし(笑)、そのうえ失敗などもするんだし、
そうなったらもうこれ以上はないくらいの、大チャンスが転がってきた、ということだととらえる。
そう、怒ったりがっかりしたとか言って嘆いているクライアントは、
(ふつうに育った人なら)良心の呵責にさいなまれている真っ最中。
今こそ汚名返上、名誉挽回(汚名挽回は間違い)、それどころか、
今後いかようにでも騙せるくらいの絶対信頼を得る、またとない機会が到来したととらえるのだ。

人間の心の構造は複雑怪奇でとらえがたいところもあるが、
それを洞察しようとする努力さえ怠らなければ、マナーなんてものはやがて、
いともカンタンに身につくものと考えていてよいと思う。